G

土曜の夜。この世で1番平和で心が休まる時間だ。5日間仕事を頑張り、ここまで辿り着き次の日も休みだ。最高だ。そんな最高の夜に、テレビをつけ、ソファにこれでもかともたれ掛かり、無防備を体現していた。しかし、突如視界の右端に黒い影が動いたのがみえた。その一瞬で最悪の想像が頭を掠めた。いやいや、まさか。そんなわけないとその方向に目を向けた。確実にいる。奴が。そう、Gが。しかもデカいぞ。黒いし。一気に部屋がパニックルームと化した。ここから人間2人VS黒い生物の長い夜が始まった。

 

震える身体を必死に動かして、ゴキジェットを手に取り、例の場所へと向かう。しかし、いざ対峙すると余計な考えが頭を掠める。発射してこっちに向かってきたらどうしよう、厄介な場所に逃げ込んだら、そもそも近づくの嫌などなどと。「降参だよ」と笑いながらゴキジェットを置いたはいいもののこのままにしておくわけにはいかない。結局ゴキジェットは諦め、置き型の退治してくれるやつを買おうとドラッグストアへ向かった。ドラッグストアへ向かう前に奴がいる場所の前を通り、リビングの扉を閉めるでも大騒ぎしてしまった。隣、下、上の部屋の方、ごめんなさい。

 

ドラッグストアにてアースレッドWという最強武器を手に入れ意気揚々と帰宅したのも束の間、今度は先程やっとの思いで締めた扉を開け、アースレッドWを置かなくてはいけない。こわい。身体からは大量の汗が吹き出し、もし開けて目の前にいたらどうしようなどと考える。そこから20分程かけてやっとの思いで扉を開け、アースレッドWを置くことに成功した。そこから1時間以上放置しなくてはいけないので散歩へ出掛けた。束の間休息である。

 

1時間半が経過したところで重い足を引きずり帰宅した。こんなに家に帰りたくなかったのは初めてだ。扉を開けるとリビングの真ん中あたりに奴がいた。どうやらひっくり返っているようだ。よし、最高だ。だがここで大きな問題。彼をどう処理するか。文明の利器、インターネットを駆使して調べた結果、クイックルワイパーにガムテープをつけ、持ち上げてから袋に入れようとということになった。部屋に入り、恐る恐る近づく。うん、確かにご臨終しているようだ。狙いをすましゆっくりとクイックルワイパーを下ろし、下まで到着したところで回収しようと上に上げた。その瞬間、クイックルワイパーからペーパーが外れてしまった。私の手にあるのは裸のクイックルワイパーだけ。目線の先には全てを包んでいる掃除用ペーパー。ペーパーを持ち上げようと試みたが、ガムテープと床がくっついているようでびくともしない。せっかくここまで来たのだとやっとガムテープを剥がし、あとはペーパーを持ち上げるところまでこぎつけた。よし、勝利は目前だ。そう思い、ペーパーをあげた瞬間、その下に黒いものが見えた。そう、ガムテープにくっつかずにその場にステイしていたのだ。私は全力の「いる!!!!」を残しソファにダイブした。もう無理だ。完全に戦意喪失である。そんな私を見かねて、恋人がトイレから大量のトイレットペーパーを持ち出して奴がいる場所に落とし始めた。「これならいける」 と小さく呟き大量のトイレットペーパーを抱えてゴミ袋へ入れた。元の場所に奴はいない。そう、闘いは終わったのだ。私は「ありがとう」と小さく呟いた。

 

翌日、部屋の大掃除を1日かけて行い、今までの生活を取り戻した。もうこんなことはごめんだ。冬の始まりを早くも願っている。